ミラクルうちわ

今年も残すところ後わずか。AAAのドームツアー2019「+PLUS」も福岡のヤフオクドームで無事完走となり、AAAメンバーはもちろんのこと、スタッフの皆様におかれましても本当に今年一年、本当にお疲れ様でございましたと言いたい。今回のツアーは名古屋ドームで参戦させていだだきましたがマジでヤバかった。

「今回はすごく良かった!」

と言ったら少し語弊があるかもしれない。当然のことながらライブの内容はいつもいつも素晴らしい。日常に抱えているストレスや悩みといったものを全て忘れ去り、ライブが始まるや否や住んでる地域も年齢も考え方もまるで違う何万人という人間が、このドームという空間の中で肩と肩を隣り合わせ手を挙げ声を上げて、AAAの織り成す世界で一体となる。

豪華な演出に彩られた最高の歌とパフォーマンス、毎回行き当たりばったりで繰り広げられるメンバー達の爆笑必至のMC。毎度毎度最高のステージをありがとうございますと言いたい。しかしその中でも今回のライブは格別だった。

何故格別であったのか。それはアリーナ席をゲットできたからに他ならない。夢にまで見たあの席。いつもスタンド席後方から羨望の眼差しを向けていたあの席。いくら積んだらゲットできるんですかと地団駄踏んでいたあの席である。

実はアリーナ席はこれで二度目だった。前回は二年前、アリーナツアー2017「 WAY OF GLORY」に参戦した時になる。場所は福井の越前市にある「サンドーム福井」だった。

その年の一月、実家に娘たちを預け「Nissy Entertainment 1st LIVE」の追加公演を奥さんと二人で横浜に観に行き完全にNissyのトリコになってしまった奥さんが、AAAのにっしーも見てみたい!と言って初めてAAAのライブに今度は家族全員で参戦した。しかもまさかのアリーナ席だった。

頭上を透明のステージが通り過ぎ、下からアーティストの靴底を見るというのは新鮮だった。ジャンプすれば届きそうなほどの位置でメンバー達が歌って踊っていた。距離感だけで言うとサンドーム福井の方が会場が狭いぶん今回の名古屋ドームよりもメンバーをずっと近くに感じられたような気がする。逆に近過ぎて、どうしたらいいか分からなくてドギマギしてしまうほどだった。

何の曲だったかはもう忘れてしまったけれど、けっこうノリの良い曲だったと思う。当時まだ幼かった次女が最初のうちこそ喜んではしゃいでいたものの、突然スイッチが切れたように眠気に襲われて僕に抱っこ抱っことせがんだ。せっかくいい所なのに……と思ったが、目を擦る娘もまたいじらしく可愛い盛りだったので、仕方がないなぁと僕は娘を肩に抱え上げた。会場内はかなりの盛り上がりを見せていたが、娘は僕の肩でものの数秒で眠りにおちた。娘を抱えながらも、目の前に迫るムービングステージ上のパフォーマンスは躍動感に溢れ、片時も目を離すことなどできなかった。

娘を肩に抱え興奮しているこの親父が気になったのだろうか。ふと、じっ……とこちらを見つめる視線に気がついた。ステージ上からこちらを見つめる視線の主は、「真ちゃん」こと與 真司郎、彼であった。一切目を逸らさずに真っ直ぐこちらを見ている。

錯覚かと思ったが完全に目が合っている。そうはっきりと自覚できるのは、毎年受けている健康診断で両眼共に視力1.5というスコアを20年以上キープしているからだ。しかし王子様のような端正な顔立ちと、こちらを真顔で見つめる曇りのない瞳に動揺し、堪え切れずに僕は目を逸らしてしまった。

真ちゃんファンならば瞬殺ものだったであろうあの視線。あの時彼は一体何を考えていたのだろうか……。おそらくは僕の肩で眠る娘に対しての気遣いか、はたまた「お父さんお疲れさんやで〜」という意味合いなのか、もしくは完全な「無」の状態であったか?それとも興奮している僕の顔が単純に気持ち悪かったからか。いまさら確認しようも無いが、時間にするとほんの数秒、奇跡的にも真ちゃんとしばらく目が合っていたのだ。さすがアリーナ席。こんな事があるのかと感動した。しかし、奇跡はそれだけではなかった。

実はこのライブの前日まで、独り苦悩する妻の姿があった。その頃はまだ今のように電子チケットではなかったので、チケットが届いた時点で何処の座席かが記されていた。そして僕達の座席がアリーナ席だとわかった時点から、どうしよう!どうしよう!と奥さんが頭を抱えていたので、そんなに取り乱して一体何を悩んでいるのかと聞いてみた。

するとどうやら「うちわ」を持っていくかどうかを悩んでいたらしい。確かにライブといえばペンライトとうちわのイメージが強い。しかし今までNissyや他のアーティストのライブの時でも、グッズであるペンライトを持つことはあっても、自作うちわを持つという事にはまだ少し抵抗があった。それこそ若い頃なら持っていたかもしれないが、そこそこいい年である。しかしアリーナ席。近いはずだ。こんなにも彼女がどハマりしたアーティストは未だかつていなかった。そんなに振り向いて欲しいのかにっしーに。

そして奥さんは僕に問うように喋り出した。「ちょ、考えて。そもそもにっしー大好きとか書いてるうちわをアタシが持ってていいん?まぁまぁいい年やのにミーハーとか思われへんやろか。ああ、でもにっしーめっちゃ見てほしい!でも作るのけっこうめんどくさいよなぁ。でもアリーナやろ?見てもらえる可能性は高いやんな?どうする?自分やったら。作る?これは作るべきなん?えーでも勇気いるわー、オバチャン勇気いるでこれは。もう決めて。どうするかパパに委ねるわ。えーでもどうなん?ほんまにさー……」という具合で悩みはエンドレス状態。もう見るに見かねて備えあれば憂いなしだろうと、ライブ前日に夜鍋してうちわを作りました僕が。文面はにっしー大好き。

ライブ用うちわ

そして場面はムービングステージが会場を往復して僕達の真上に戻って来た時である。奥さんと長女のちょうど真上。本当に二人の真上。なんと憧れのにっしーがど真上にいるではないか。この時の曲も何だったのか忘れてしまったけれど、ちょうど歌は別メンバーのパートに入り、にっしーは屈むような姿勢でポーズをとりながら待ち状態だった。すかさず奥さんと娘は、僕が夜鍋して作ったうちわをにっしーに向けて振った。

見てる。にっしー見てるわ。透明のステージ越しに完全に見てる。にっしーの左斜め下方から僕はその様子をハッキリと捉えることができた。裸眼視力両眼共に1.5のこの眼でしっかりと。

にっしー大好きと書かれたうちわを持っている二人を見てにっしーが微笑んでいる。僕は我が妻が今どんな反応をしているんだろうと、微笑むにっしーから滑らせるように奥さんの表情を窺った。

やられてる。目がもうキラキラしちゃってる。たぶん泣いてる。20歳の頃に出会って、そして結婚して二人の娘を授かり現在に至るまで、その長い長い時間の中でも見たことがない顔してる。そりゃそうだ。距離にして1mあるかないか、しかも真上からのにっしースマイル直撃。威力は計り知れないだろう。良かったね。本当に良かった、うちわ作っといて。

もうその日はね、にっしーが見てくれた見てくれた言うてね、「見た⁉︎にっしーが見たとこ見てた⁉︎アタシ→長女→アタシって二回見てくれはってん!(バシッと僕の肩を叩く)ヤバない?ほんまにヤバイねんけど。もうめっちゃ可愛かった〜!絶対見てくれてたやんな?間違いないよな?すごない?なぁっ⁉︎(うんうんと長女が相槌を打つ)うちわ効果絶大やわパパ。ほんまありがとう。作って正解やったな。いやー、見てくれはったぁ〜ほんまに……」それはそれはもう饒舌になって、ホンマによう喋らはったよウチの奥さんは。

あれから二年。再びアリーナの地を踏む事になるとは夢にも思わなかった。今は電子チケットになってしまったので入場二時間前にならないと座席が分からない。座席が判明した瞬間、我が家のテンションは拳を突き上げ今年一番のボルテージに達したことは言うまでもない。

アリーナ……。なんて素晴らしい響きなんだ。二年前の福井の記憶が甦る。しかも今度はドームだ。スタッフの方が座席まで案内してくれるその間、まるでヤバイ!ヤバイ!と連呼するかのように胸が高鳴った。案内されたのはステージからわずか九列目という位置だった。自然と家族全員の顔から笑みが溢れる。近い。

後ろを振り返ってスタンド席に視線を投げると、かつて僕達が向けていたように、何となく羨望の眼差しを向けられているような気がした。「すいません、そうなんです、僕達アリーナ席なんです」と誰に対してなのかわからないが心の中で軽く会釈をして深々と腰掛けた。

ライブはやはり良い。アリーナ席ともなれば尚更だ。いつもモニター越しに見ていたメンバーを自分の目で直に見ると、その表情や汗ばんだ肌感がリアルに伝わり、彼等はこの世界に本当に存在していて、今まさに目の前に居るのだと改めて思った。炎が曲に合わせてリズミカルにステージから立ち上る。近い。ヤバイ。意外と熱いっ。

もちろん今回もうちわを持って来ていた。あれからというもの、ライブに行く時は座席の位置に関係なく必ず持って行くようにしている。チャンスがあればいつでも出せるように。しかしあれからかなり月日が経ってしまったので今回は新しく作り直したNEWバージョンだ。

文面は「にっしーめっちゃ好きやで」

そしてその裏には「にっしー無理しないでね」と書いた。

ライブ用うちわ

とにかくにっしー。無論西島推しである。今回は関西弁で好きな気持ちをアピールする作戦だ。男なら「めっちゃ好きやで」というフレーズは大好物に違いない。そして「無理しないでね」というのは、にっしーが声帯の手術をしたというのと、腰をずっと痛めているのが心配なので。奥さんの深い深いにっしーへの愛が存分に込められているこのうちわ、作ったのはもちろんこの僕だっ。そしてこのうちわが再び奇跡を起こす。

それはまたもやムービングステージ、通称ムビステが僕達の横を通り過ぎようとした時だった。あれから二年、次女は七歳になった。国語で漢字も書けるようになった。しかし眠たいわけではなさそうだが、あまりのステージの近さに気圧されたのか、またもや抱っこ抱っこと抱っこをせがんできた。仕方がないと嘆息しながらも肩に娘を抱えた。重い。しかし男として重い素振りなどは微塵も見せない当然である。

するとステージサイド、僕達から見て正面に奥さん憧れのにっしーが来た。奥さんの方を見ると、もうすでに歓喜雀躍という状態だった。そしてついさっきまでNEWバージョンのうちわは奥さんが持っていたが、この時は僕が抱っこしている次女が手に持ち、にっしーに向けて振っていた。 娘もテンションが上がっている。抱える僕の腕に力が入る。

その時僕はというと、モニターの宇野ちゃんの可愛さに目を奪われていてその場面を見ていなかったので、ここからは奥さんに後で聞いた話しになるが、「え?なんで見てへんかったん⁉︎信じられへんねんけど?アホちゃう⁉︎」などと罵倒されたのは言うまでもない。

奥さん曰く、その時なんとまたもやにっしーがうちわを見てくれたというのだ。しかも今回は指差し→親指立ててGOODポーズのファンサービス付きだったらしい。その時にっしー側に見えていたのは「にっしーめっちゃ好きやで」の面だ。やはり読み通り関西弁が好物かと心の中で僕は小さくガッツポーズした。

奥さんは自分が確認したにっしーの視線の先は、次女と見てまず間違いないと豪語している。一見好き過ぎて他の誰かへ向けられたものを自分だと勘違いしているかと思われがちだが、確かに僕もその話しの信憑性は高いだろうと思う。なぜなら彼女もまた、裸眼両眼共に視力1.5だからだ。

このドーム内の何万人というファンの中で、ほんの一瞬でも自分達の存在を気にかけてもらえた事はまさに奇跡であり忘れられない体験だ。

「今は今しかないから。今日という日に出会えたことを本当に嬉しく思います。本当にありがとうございます!」

と自身のライブで言っていたにっしーの言葉が頭をよぎる。そして思う。うちわはライブにおいて必須アイテムであると。その日のそのライブはその日一度きりしか無いのだ。だからこそライブを120%楽しみたいのであれば、労力を惜しまず作るべきだと僕は思う。 来年は東京でオリンピック、パラリンピックが開催され、AAAも15周年を迎えるという大きな節目の年になるだろう。 いちファンとしての気持ちを、愛を、メッセージを伝えるのだ。お手製のうちわに乗せて、関西弁で。

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