溶接免許取得までの流れ~申込み編~

※2020年3月10日に公開した記事ですが、追記しておきたい事があったので、その他の部分もすこし修正して2020年10月30日に再度公開しました。

溶接業界で仕事をするならば、持っておきたい溶接免許。正確には溶接技能者資格と言うようですが、資格を持っているということだけで「ワタクシ、免許ヲ持ッテイルノデ確カナ仕事ヲシマス」と、取引先に対しても会社に対しても、信頼を得ることができるのは間違いないはず。溶接マスターを目指すならば是非とも取得したいところですよね。

例えば、免許を取得するための受験費用を会社が負担してくれるような場合は問題無しです。ノンストレスです。しかし、一部の個人経営の小さな町工場や建設業の場合、そういった資格に対する認識が甘いところが中にはあるというか、まあ費用も馬鹿にならないのでしょうが、「別に資格なんか持ってなくても仕事なんかできるだろう?」などと相手にされないなんて場合もあるかもしれません。

そうなると個人で取得するしか方法がないわけですが、そういった場合、会社を通さずに自分で申し込みをするには一体どうすればいいのかよくわかりませんよね。僕もそんな感じだったので、色々と苦労しました。

今の時代、いつ自分がどうなるかなんてわからない。ひょっとしたら明日隕石が落ちて会社が無くなるかもしれない。……まあそれは無いか。でも急に会社が倒産して、突然無職になるなんて可能性は無きにしも非ずです。そんな時、資格を持っているのと持っていないのとでは再就職する時の待遇も違うはずっ。と、何故かある日突然そんな漠然とした不安に駆られて「よし、絶対溶接免許を取るぜよ!」と思い立ったのでありました。

備えあれば何とやらって言うじゃないですか

なので、そういったケースも含めて溶接免許を取得するまでの流れをなるべくわかりやすいように説明していきたいと思います。

ちなみにこれから説明する資格取得までの流れは、僕が取得したティグ溶接の基本級TN-Fという資格を基に説明していますが、その他の溶接資格も流れ的には似たり寄ったりだと思うので、それ以外の溶接免許を目指しているという方も暇つぶしに読んでみて、参考にしてみたりしてみなかったりしてください。

溶接資格の取得と維持

半自動溶接をしている様子

まず溶接の資格は一度合格してしまえばOK、という永久ライセンス的なものでは無いです。まずは溶接免許の維持について説明しておきたいと思います。

溶接技術というものは日々磨けば進歩しますが、怠ればその逆もあり得ます。視力が落ちてくるかもしれないし、年をとれば体力も落ち、衰えてきます。今まで簡単に出来たものが最近出来なくなってしまった、なんてことも長い人生あるでしょう。つまり、一定レベルの技術が証明できる間は資格を維持する事ができますが、できなければアウトということです。

下の図は試験を合格してから再評価試験までの流れです。1年目、2年目は、サーベイランスと言って、「一定レベルの溶接技術を維持しながら業務に従事しています」という証明手続きをするだけで資格を継続する事ができます。

溶接試験後の流れを説明する図

しかし3年目には、もう一度実技の評価試験を受けなければなりません。ここで合格ができなければ資格を更新することができません。アウトです。本当に技量が衰えていないか、実際に試験官によって評価されるというわけですね。無事合格すれば、この流れでまた資格を維持していくことになります。3年毎に実技試験があるという事です。ちなみに学科は一度合格してしまえばOKですのでご安心ください。

まずはアーク溶接特別教育を受講するべし

一部のプラスチック溶接や銀ろう付けの評価試験を除き、半自動溶接やティグ溶接など、大半の溶接技能試験では、受験する前に労働安全衛生法によるアーク溶接特別教育を受講しておく必要があります。

免許が欲しけりゃ、まずは溶接の基礎を覚えてから来やがれってことですね

この講習が意外と修了するまでに時間がかかり、二日から三日程度を要します。学科と実技があって、学科ではアーク溶接の基礎知識から作業に関する安全対策や関係法令などを学び、実技では溶接装置の取り扱いやアーク溶接の作業方法について、実際に作業をしながら学びます。

実技については、社内で7時間以上の実技実習をしましたという証明書を提出すれば、実技講習の時間を短縮できる場合があります。詳しくは各都道府県の溶接協会にお問い合わせいただくか、「アーク溶接特別教育」で検索して、講習を実施している最寄りの協会のホームページをチェックしてみてください。

お金のイラスト

受講費用は各協会によってバラつきがありますが、およそ15,000~20,000円ぐらいです。(※テキスト代や材料費を含む)全ての講習を修了すると、修了証が交付されます。

溶接技能者評価試験の申し込みをする

申し込みのイメージイラスト

アーク溶接特別教育の修了証が交付されたら、ようやく溶接技能者評価試験の受験申請をすることができます。いよいよ本番というわけです。溶接試験種目には半自動からプラスチックの溶接まで、かなりの種類があり、僕が受けたステンレスのティグ溶接の種目だけでも基本級・専門級合わせて5種類もあります。あり過ぎです。

専門級を取得するためには、まず基本級に合格していることが絶対条件ですが、基本級に合格することを前提として、基本級と専門級を同時に受験することもできます。ただし、専門級が合格しても基本級が不合格だった場合は専門級の合格が無効になってしまうのでご注意ください。二兎追うもの一兎も得ずということになりかねません。

とりあえず基本級に合格することを第一に考えましょう。まずは自分が受験したい種目を決めます。各種目について詳しくは日本溶接協会のホームページでご確認ください。

申込書の書き方

日本溶接協会のホームページ内、受験申請窓口にて、お住まいの都道府県の各受験申請窓口に電話、またはFAXで連絡をして申込書を郵送してもらいます。申込書が自宅に届いたら各項目に必要事項を記入して、申請窓口へ返送します。

後日受験票が送られてきますので、同封されている書類に記された支払期日までに指定口座へ受験料を振り込みます。受験費用は受験する種目によって違います。僕が受験したティグ溶接の基本級でおよそ12,000円(※)ぐらいでした。

※2020年9月1日から受験申込手続き等が簡素化され、申し込み費用に一部変更がありますので、詳しくは本記事の最後に追記しましたのでご確認ください。

ティグ溶接の種類
ティグ溶接の種類

上の図はステンレス鋼溶接技能者資格の中のティグ溶接の種類です。一番上のTN-Fが基本級と呼ばれる資格になります。その下に並んでいるのが専門級で、溶接方向によってそれぞれ分類されています。

これはあくまで僕個人の意見ですが、基本級と専門級全てを取得しようと思ったら、総額で5万円以上かかります。しかも半自動や手アーク溶接なども取ろうと思ったら、その費用は結構な額になります。会社が費用を全額負担してくれると言うのならノープロブレムですが、個人で取得するとなると金銭的負担が大きいです。もう泣きそうです。なので専門級はある程度まとめて一つの資格にするとか、もしくはそれぞれの受験費用をもう少し安くしてくれるだとかしてくれたら超嬉しいのに……というのが切なる願いであります。

なんせ世知辛い世の中ですからね

それでは申込書の書き方について、下図のステンレス鋼溶接の申込書を例にして各項目ごとに説明していきたいと思います。

溶接試験申込書記入例

①初めて受験する場合は新規受験に丸をつけます。更新や再試験の場合はそれぞれの区分に丸をつけます。もし実技試験で不合格になっても、学科が合格していれば学科合格証明書(有料)をもらっておくと、3年間は実技試験のみの受験ができ、再試験の時は学科が免除されます。

②自分の住所、氏名、生年月日など、それぞれ必要事項を記入して捺印します。

③現在勤めている勤務先名、住所、電話番号を記入します。もし会社を通さず個人で受験する場合であっても、ここは記入しておいて大丈夫だと思います。

④受験種目欄は自分が受けたい試験の種目に丸をつけます。基本級と同時に専門級を受ける場合は、その専門級の種目にも丸をつけます。

⑤使用溶接材料欄には、試験当日に使用するワイヤ、もしくは溶加棒の銘柄と規格の種類、受験する種目名、使用するシールドガスの種類を記入します。専門級を受ける場合、使用する溶加棒が同じであれば受験種目の欄は基本級の記入だけでOKです。もし別の溶加棒を使用する場合は記入する必要があります。

溶加棒の規格
ステンレス用溶加棒の銘柄と規格の種類

⑥通知先には自宅と勤務先を選択することができます。後日、選択した通知先へ受験票が郵送されてきますので、会社に内緒にしておきたい場合は必ず自宅に丸をつけましょう。

⑦実務経験年数は、基本級であれば1ヶ月以上、専門級は3ヶ月以上溶接技術を習得していることが条件です。要は溶接作業に継続的に従事しているかどうかです。しかもそれを証明してくれる人の署名捺印が必要になります。ここが個人で取得する場合はネックになってしまいますが、実は署名してもらうのは会社の代表者や上司でなければ駄目だという決まりはありません。

そもそも役職名を記入する欄も無いので、仲の良い同僚でもおそらく問題はないです。勿論まったく関係の無い他業種の人ではさすがに駄目かもしれませんが、言ってしまえば溶接に携わるような仕事をしている人であれば、取引先であろうが親兄弟であろうが証明さえしてもらえるなら誰でもOKということです。

あえて確認してくる様なことは無いかと思いますが、万が一確認の連絡があってもいいように、快く引き受けてくれる人にお願いしましょう。

以上の各項目を全て記入できたら、下記リストにある必要書類を同封して管轄の溶接協会へ郵送します。必要書類については、申込書が送られて来た時に同封されている書類にも記載されていると思いますので、入れ忘れや記入漏れが無いかを入念に確認してからポストに投函しましょう。

  • 申込書(必要事項を記入の上、証明写真を貼付るのを忘れずに!)
  • 返信用の封筒2通(宛名記入、82円切手貼付したもの)
  • 証明写真1枚(申込書に貼付たものとは別に、裏面に氏名を記入したものを同封する)
  • アーク溶接特別教育の修了証のコピー

試験当日の持ち物について

申込書を送付したら、後日受験票が送られてきます。同封されている書類に支払方法や振込先が記載されていますので、必ず支払期日までに受験料(※)を納付するようにしましょう。

※2020年9月1日から受験申込手続き等が簡素化され、申し込み費用に一部変更がありますので、詳しくは本記事の最後に追記しましたのでご確認ください。

試験当日の持ち物については書類にも記載されていると思いますが、参考までに僕が受験したティグ溶接基本級TN-Fの試験で、実際に持って行った物を下記に載せておきます。受験する種目によって持ち物は微妙に違うので、当日に忘れ物をしないように必要な物は事前に揃えておくようにしましょう。

★試験当日の持ち物★

  • 受験票
  • 筆記用具
  • 溶加棒(申込書に記載したもの)
  • 溶接面
  • 保護メガネ
  • 軍手もしくは革手袋
  • タングステン棒
  • ワイヤブラシ
  • ハンマー
  • ディスクグラインダー(通称サンダー)

試験当日の服装について

作業者のイラスト

試験当日の服装は、溶接作業ができる服装なら何でもいいと思いますが、やはり作業着に安全靴というのがBESTだと思います。とにかく場に馴染みますから。だって試験会場といえど、溶接を生業とする猛者ばかりが集っているんですから。帽子かヘルメットも必ず着用するようにしましょう。僕が試験を受けた時は、ネルシャツの上にブルゾンを羽織って、下はジーパンにスニーカーという恰好で受験している人がいました。かなり私服感強めでしたが、それでも試験を受けることはできていました。でも完全に周囲から浮いてしまっていたのでお勧めはできません。

以上、溶接免許試験の申込み手順を説明させていただきました。肝心の試験内容については、別記事の「試験編」にて学科と実技に分けて詳しく説明したいと思います。

追記です

2020年9月1日から受験申込手続等が簡素化されたことにより、本記事の執筆当時と今では一部料金の変更などがありましたので追記しておきます。

サクッといきましょう!

溶接技能者評価試験の受験申込手続き等の簡素化ってなに?

なんか、漢字ばっかりダララーっと並んでますが笑↑具体的にどうなったのかというと、これまでは……

この間まで:受験申込(受験料+郵送料を払う)→試験を受ける→合格→認証申込(認証料+郵送料払う)→適格性証明書(溶接免許)ゲット!

という流れでしたが、2020年9月からは……

現在:受験申込(受験料+認証審査料+郵送料を払う)→試験を受ける→合格→適格性証明書(溶接免許)ゲット!

という流れに変わりました。もう受験と同時に溶接免許の発行申込も先にしておくという合格ありきの設定になってます。ですから試験を無事通過していれば、合格通知と一緒に溶接免許が届くというわけです。確かに今までは、合格通知が届いてから認証申込をするという流れでした。試験に合格しているのにもかかわらず「試験に合格したので免許を発行してください」という申し込みをしなければならなかった、あの謎のひと手間が減っているので簡素化はされてますね笑

じゃあ不合格だった場合はどうなるの?というところですが、不合格だった場合は、どこが駄目だったのかという不合格理由が記載された成績開示書が送付されます。これは今までならば不合格理由を知りたい人だけが個別に請求できる有料のオプションでしたが、受験者へのサービス性向上のため、不合格者全員に開示されるようになりました。

「じゃあ溶接免許もらえないんだからアレいらないよね?認証審査料、いらないよね?」

って思いますよね。でも認証審査料の返金は一切ありません。ガチで。

「これは上記のサービスを実施するための料金ですので、不合格時に返金等はいたしません。ご了承願います。」

と日本溶接協会がはっきりと名言しております。つまり、しっかりといただくもんはいただきますと、そういうことです笑

また、学科のみの合格者に対しては学科合格通知と一緒に学科合格証明書が送付されます。これも今までならば有料でしたが、すでに認証審査料に含まれているというわけですね。請求手続きをしなくて済むので簡素化されています。

受験のための料金まとめ

最後に受験にかかる費用をまとめておきます。ちなみに実技の受験料は各種目ごとに違いますので、詳しくは日本溶接協会のこちらのページの最下部にある料金表からご確認ください。

  • 実技受験料:各種目により料金が異なります
  • 学科受験料:1,100円(1種目ごと)
  • 認証審査料(※1) 
    新規・再評価(JPI溶接士以外):2,860円(申込書1枚ごと※2)
    新規・再評価(JPI溶接士):4,730円(申込書1枚ごと※2)
    ※1:認証審査料には合格通知書・成績開示書・適格性証明書・学科合格証明書の発行料金が含まれています。
    ※2:複数の種目を同時に受験する場合、申込書1枚に集約できる種目とできない種目があり、申込書が2枚になれば料金も上記の金額×2となります。
  • 郵送料
    個人申込みの場合:1,100円(※3)(1人ごと)
    団体申込みの場合(勤務先が同じで2人以上申込む場合※4):2,200円(※3)(1評価試験ごと)
    ※3:受験前の受験票の郵送(普通郵便)と、受験後の合否通知書・成績開示書・適格性証明書・学科合格証明書の郵送(簡易書留郵便)の2回分を合わせた料金です。学科のみの受験(学科追試)の場合でも同じ郵送料金です。
    ※4:勤務先の名称が同じでも所在地が異なる場合(事業所が違う場合など)は郵送先も異なるため別々の勤務先として扱われます。

以上が受験にかかる費用になります。例えば僕が受験したティグ溶接の基本級TN-Fだと実技受験料が6,780円ですので

実技受験料6,780円+学科受験料1,100円+認証審査料2,860円+郵送料1,100円=11,840円

となります。ちなみにJPI溶接士とは石油工業溶接士のことで、石油工業関係の溶接技能資格らしいです。なんか、難しそうですね(;´Д`)

というわけで追記でした。この記事が溶接免許取得を目指している方の参考になれば幸いです。

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