あら、お久しぶりですね。出来ればお会いしたくはありませんでしたけれど。

集中治療室なぅ。

久しぶりに心室細動が起きた。前回車の運転中に起きたのが2015年だったので約9年ぶり。アンタまだ居たのね、という感じ。

幸い夜ご飯を食べ終わり、家のソファに座って家族でテレビを観ながらくつろいでいる時に起きたので転倒したりすることもなく、そしてすぐにICD(埋め込み型除細動器)が作動してくれたおかげで大事には至らなかった。

最近仕事が忙しく残業続きで疲れ気味だったのがいけなかった。あれほど気をつけなければいけないと思っていたのに、人間とは本当に幾度となく辛い目に合っても喉元過ぎればまた忘れてしまう生き物なのだという事を痛感した。

意識を消失していたのはおそらく数秒だったと思う。観てる番組の画面もそんなに変わってなかったので自分でも一瞬寝落ちしてたのかな?と思ったぐらい。

向かい側に座っていた娘が「えっ?何何?怖い怖い!」とパニクっている。一瞬何を言ってるんだと思ったけれどすぐに気が付いた。心室細動が起きたのだ。

目が虚で呼びかけても返事は無く、そして体がビクンッビクンッと痙攣したらしい。おそらくその時ICDが電気ショックを与えていたのだろう。その場面を自分で想像して気持ち悪かっただろうなと思った。実際正面で目の当たりにした娘はさぞかしびっくりした事だろう。

そうして意識が戻った時にはすでに妻が救急車を呼んでいて電話で現在の状況を説明しているところだった。

えっ?電話すんの早くない?

それもそのはず、妻の目の前で心室細動を起こしたのはもうこれで三度目だ。3回目ともなると慣れというか焦ったり慌てたりするロスタイムが無い。

おそらく普段から常に僕の様子に気を配ってくれているのだろう。それにしても対応が迅速過ぎる。まさに神対応。それから10分も経たないうちに救急車が到着した。

僕自身は意識もハッキリしているのでストレッチャーで運ばれるのもなんか変だなと思い当然のように自分の足で歩いて救急車に乗り込んだ。

我が家は普通の静かな住宅街にある一軒家で、さすがに夜なのでサイレンは鳴らさないで来てほしいと妻が電話でお願いしていたが玄関を開けるとすでに煌々と照らされた赤い回転灯が近所の人達を集めていた。

その前をどうもお騒がせしてすみませんとヘコヘコしながら救急隊員の人に促されるまま、開け放たれた後ろのハッチからひょいっと乗り込んだ。近所の人達からすれば「え?誰が運ばれるの?」みたいな気持ちだったろう。

さすがに救急車の中では心電図や血圧やら測られるので横にはなる。いつまた心室細動が起きるか分からないので仕方がない。サイレンを鳴らしながら走る車内はガタガタとけっこう揺れる。救急車に乗るのはこれで4度目だ。相変わらず乗り心地は良くない。そしてかかりつけの病院へ。

病院に着くとすぐさま心電図やら酸素量やら血圧やらを測るものが手際よく僕の体に取り付けられる。

程なくするとICDの分析をしますね、と技師の人がやって来た。そして僕の胸のICDが埋め込まれている辺りに機械をかざすともう片方の手でノートパソコンをカチャカチャと操作した。

この時点でノートパソコンと僕のICDが繋がったのだろう。技師の人から医師に伝えられている情報に聞き耳をたてる。どうやら実際にICDが電気ショックを施した心室細動以外にも何度か起きていて、1秒ぐらいの短いものも合わせると合計5回も起きていたらしい。

確かに今思えばソファに座ってくつろぐ前、心臓のあたりがドクンッ……ってなったと思ったら頭がクラっとすることが何度かあった。ちょっとヤバいな、と思って座っていたら案の定だった。

前回はいきなり目の前がチカチカッとフラッシュを焚かれたような感じになって意識を失ったのに比べて今回はそれが無かった。こんな感じでくる事もあるのか、と思った。

ICDには実際に心室細動が起きた時の心拍数以外に、どの時点で電気をチャージして、どの時点でショックを施したか、という事まで記録されているらしかった。

今回は心室細動が起きてから電気ショックまで約18秒だったらしい。それにしてもやっぱ対応が早いわウチの奥さん。だって目が覚めて後ろ振り返ったらもう電話中だったもん。およそ20秒ぐらいの間に僕への呼びかけ→反応が無い→119番→状況説明、までやっちゃってるもんね。

「大事をとってとりあえず今日はこのまま入院してもらって今後の対応は明日主治医の先生が来てから相談しましょう。」という事でそのまま即入院となった。発作がまた起きた時にすぐに対応出来るようにと念のため24時間モニタリングできるHCU(集中治療室)へ。

そして迎えた朝7:50。真っ白な室内、左腕には点滴の管、頭上では時折ピッとかポーンとか音を立てて心拍数やら何やらが表示されているモニターが立つ。ああ、そうか入院したんだっけか。この感じ久しぶりね……と気が滅入る。

まもなく朝ごはんらしい。別に発作が起きたからといって何が変わったわけでも無いので普通に腹も減っている。そして見事に完食。栄養バランスの取れた食事はどれも美味しかった。

そんな様子を見てかどうかは分からないけれど「今は落ち着いているようなので午後から一般病棟へ移りますね〜♪」と、マスクをしている限りは広瀬アリスにしか見えない看護師さんに車椅子に乗せられ4人部屋の病室に移動。6階の窓際で見晴らしがとても良い。

くすり

そして金曜日になった。なんだかんだで入院生活もようやく今日で終わりだ。月曜日に救急車で運ばれて今日は金曜日なので5日間も入院していたことになる。午後には退院する事になっている。

今は清々しい気持ちで退院の準備をしているけれど、入院中一つだけとても辛いことがあった。人はただ健康であるというだけでなんて幸せな事なんだろうと心の底から思った。

火曜日の午前中にさっそく主治医の先生が来てくれた。今回の事態を受けて先生も何らかの対策を講じないといけないと考え、現状飲んでいる薬に加えて新たに薬を追加してみましょうという事になった。

それは「シロスタゾール」という薬だった。効果としては血液をサラサラにして血の流れを良くする薬だ。何となく効果が期待出来そうな気がして僕もその時はそんな薬があって良かったとホッとしていた。

火曜日の夕食後から飲み始めてその日の夜、すこし頭が痛いなあと思っていた。急にゆっくりしちゃったもんだから体がおかしくなったのかな?とその時はそんな程度に思っていた。

水曜日の朝になると頭痛はさらに酷くなっていて、さらには吐き気も出てきてあんなに美味しかったご飯がほとんど食べることができなかった。

その状態は一日中続き、看護師さんに相談して痛み止めと吐き気止めを処方してもらっても収まらず、食事はもちろん水曜日の夜から木曜日の朝にかけては頭痛と吐き気にさらに拍車がかかり一睡も出来なかった。

夜中に2度吐いてからは少し楽にはなったけれど辛い状況は朝までずっと続いた。まさに地獄のようだった。

意識朦朧とした朝を迎え、そこでようやくシロスタゾールの副作用では?ということを疑った。木曜日の朝一番にそれを看護師さんに伝え、すぐに主治医の先生がやって来てシロスタゾールは一旦中止しましょうということになった。

そしてその日の午後になる頃には嘘みたいに頭痛も無くなり吐き気も無くなったので、やはり僕にはシロスタゾールが合っていなかったのだろうと思った。

主治医の先生いわくシロスタゾールは副作用も少なく、血をサラサラにする薬の中でも軽い方の薬らしいのだが僕にはまるで合っていなかった。薬というよりは毒に近いと思った。

シロスタゾール……。その薬名はしっかりと頭に刻み込んだ。どんな公式や英単語や歴史上の出来事よりも深く深く脳内に刻み込んだ。もう二度と飲まないぞってね笑 現に今日の朝ご飯は完食した。健康って素晴らしい!食べれるって素晴らしい!

今回の入院で学んだ事は、心臓に普段感じない脈動を感じた時、頭がクラクラした時、そして目の前がチカチカした時はすぐに座るなり寝るなりして意識を失っても大丈夫な体制をすぐにとる!仕事は頑張り過ぎない!シロスタゾールは二度と飲まない!という事だ。

誤解があってはいけないので訂正しておきますが、あくまで僕には合っていなかったというだけでシロスタゾールはちゃんとした医薬品です。もちろん僕と同じブルガダ症候群の方に効果があるかも知れませんので、この記事を読んだからといってシロスタゾールは飲みません!とつっぱねないようにしてください笑

兎にも角にも無事退院出来て良かったです。普段から死ぬこと以外はカスリ傷、なんて言ってますが今回あらためて生活習慣を見直す必要があるなと思いました。

誰も勝手に健康にはならないし自堕落に生きているつもりも無いんだけれど、やっぱりどこか不健康な事をしているんだろう。家族の為にも自分の為にも、もう少し自分の体を大切に考えないといけないなと思いました。

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